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フライブルクのLRT(トラム)
-環境首都の秘訣は路面電車の活用-


都心のトランジットモール。LRTのすぐそばを人々は平気で歩きます(2003/5/8)。【クリックで拡大します】


 フライブルクはドイツ南西部、バーデンヴェルテンブルク州にある都市で、中世より大学都市として知られています。スイスに同じ名前の街(フリーブール市)があるので、正式には地域名を冠して、Freiburg im Breisgauと言う名前です。ライン川流域に位置し、対岸はフランス・アルザス地方、南にいけばすぐにスイスのバーゼル市になり、国境地帯にある都市でもあります。人口は19万人で、近年は環境政策で最も優れた都市と評価され、日本では環境首都として有名です。バーデン州一帯に広がる黒い森(シェバルツバウト)の西端に位置し、森に抱かれた街でもあります。中世より街中には、黒い森の清流を引き込んだ小川(ベッヒレ)が町中に張り巡らされており、フライブルク名物として親しまれています。

 フライブルクという街の名前は、自由の街という意味です。大学都市として長年の自治の伝統があることから、フライブルクはドイツにおける環境運動発祥の地となり、今日の環境首都と呼ばれるまでに環境政策が進んだ原動力となったと言って良いでしょう。フライブルクの環境政策として特に評価されているのは、エネルギー政策、廃棄物のリサイクルならびにごみ減量政策、交通政策の3つです。フライブルクの環境運動の始まりは、原子力発電所建設問題と、酸性雨による黒い森枯死問題を端を発しています。70年代にフライブルク近辺に原子力発電所建設計画が持ち上がった際、フライブルク市民は猛反対をしました。その際、ただ反対するだけでは説得力がないということから、フライブルクは原発や化石燃料に頼らないエネルギー供給を実現させようということになりました。そこで、フライブルクは省エネの推進と、積極的な太陽光発電の推進を進めてきました。太陽光発電の普及率はきわめて高く、また誘致の結果、フライブルクはヨーロッパでも有数の太陽光発電関連の研究施設や企業が立地し、太陽光発電はフライブルクの一つの産業として確立しています。

 フライブルクのLRTは、環境保全のための交通政策と切っても切れない関係にあります。70年代に酸性雨による黒い森の枯死が起きた時、原因はハイウェーを中心にした、自動車交通量の増加によって排気ガス起源の大気汚染の悪化ということがわかりました。長距離はともかく、フライブルク市民の中で黒い森を守るために少しでも自動車排気ガスを減らすために、自動車から徒歩・自転車や公共交通への転換をはかろうという機運が高まりました。当時フライブルクのトラムは、戦前の規模に比べ路線は縮小され、狭い市街地の道路を渋滞に巻き込まれながら走っていました。そのためにトラムの廃止さえ検討されていました。道路渋滞により都心の機能は著しく阻害され、何らかの対応を取る必要に迫られていました。そこで、フライブルク市は都心への自動車乗り入れを規制し、トラムとバスを強化し、公共交通中心の都市交通体系への転換を図りました。都心部の街路は自動車は入れず、人とトラムが行き交うトランジットモールとなり、クルマは環状道路で都心を迂回します。また郊外から来たクルマは、トラム(LRT)の駅に隣接したパークアンドライド駐車場に停めて、トラムに乗り換えて都心に向かいます。80年代から90年代にかけて、街の西の郊外への路線延伸をはかり、路線網が大幅に広がりました。LRTの車両も、新型のノンステップ車に次々と置き換えられて、現在は大半の車両に、最低1ヶ所、ノンステップの出入り口がついています(2017年に未バリアフリー車が引退予定)。

 2011年3月11日の東日本大震災は、世界の都市交通政策に大きな衝撃を与えました。それまで、都市交通の温暖化対策や大気汚染対策の切り札として考えられていたのは、電気自動車の普及・促進です。内燃機関より、モーターの方が環境に優しい、それゆえエンジンをモーターに置き換えれば環境問題は解決するではないか、その考え方が支配的でした。トラム(LRT)導入も、その一環でとらえられていた面は否定できない事実です。もちろん、動力の伝達効率から考えると変速機を介する必要のあるエンジンより、電圧の制御だけで変速ができるモーターの方が、エネルギー効率が高いことは事実です。しかし、電気動力化の最大の理由は、原子力発電の活用にあったのは紛れもない事実です。とりわけ、フランス政府の方針は「原子力でクルマを動かし電車を動かせば、大気汚染も温暖化も解決する」というものでした。2011年3月11日、フランスをはじめとする原子力発電と電気動力化をセットで環境問題を解決すると信じていた人たちは、その考えを完膚無きまでに叩きのめされることになりました。ストラスブールのトラムのブランドイメージにヒビが入ったのも事実です。というのは、アルザス地方はフランスでも主要な原発プラントがあるからです(この理由により、フライブルクの人たちは対岸のフランス・アルザス地方を環境先進都市と自分たちと並び称するのを嫌がっていました)。対照的なのは、ライン川対岸のフライブルクでした。なぜならば、フライブルクは「No.原発、No.自動車」という答えをすでに出し、行動していたからです。いくら動力をクリーンにしても、エネルギー多消費形の社会を改めないと環境問題は解決しないという信念をもっていたからです。フライブルクの人たちは、とっくの昔に「自動車から公共交通に転換すれば、より少ないエネルギーで沢山の人を運べし、大気汚染も無くなる。自転車なら一切汚染しない。電車と自転車を活用し、自動車を使わず、移動に使うエネルギーをなんとしてでも再生可能な範囲に抑える。」と決意していたからです。 かねてより、日本から訪問者が絶えなかったフライブルク。脱原発と公共交通の再生が課題となりつつある今の日本にとって、いまほどフライブルクから本当に学ばねばならない時はありません。




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|作成:2003年10月22日、最終更新2016年12月20日|


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