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トラム(LRT)が注目される理由

 なぜ今トラムが注目されているのか、ということについて、私が大学の学部時代のゼミのホームページで「LRTによる環境にやさしい街づくり」という題でコラムを書いています。この項で私なりにLRTと街作りについて環境問題を中心にまとめて見ました。書いたのが1999年で今から見ると情報が少し古いのですが、とりあえずそのまま転載します。


LRTによる環境にやさしい街づくり

「環境意識が高まる中、今路面電車が復活している。それも懐かしい乗り物の復活ではなく、街を再生させる最新鋭の交通機関として。LRTとはそうした最新の路面電車である。」

◇環境にやさしい路面電車―LRT

 街から路面電車が消えて久しい。だが、電車が消えたあとの街はクルマがあふれかえり、人が安心して歩けなくなってしまった。そのため、ヨーロッパでは再び路面電車が復活した。それも昔のままではなく、最新鋭の交通機関LRT(Light Rail Transit)として。LRTは電車単体だけでなく、軌道その他システムを指した総称で、単に電車車両を指す場合はLRV(Light Rail Vehicle)という。LRTの特徴はなんと言っても自動車の町中心部への乗り入れを規制したトランジットモールと合わせて行われる点にある。走る車両も老人が乗りやすいように床が低くなっている。そうしたヨーロッパの動きを受けてこのところ日本でもLRT導入への気運が高まっている。平成9年の熊本市に続きこの6月、広島でもLRVの超低床式電車がデビューした。またこれまで建設省の補助金は地下鉄建設に限られていたものが路面電車にも適用されるようになり、これを受けて平成10年に豊橋市の路面電車の駅前広場への乗り入れのためにわずか100メートルではあるが建設省の補助金をうけて延伸が行われた。いままさに路面電車は日本でも復権し、LRTへと生まれ変わろうとしている。
これだけLRTが盛り上がっている背景には環境への意識の高まりが大きい。地球温暖化問題へ対応するために二酸化炭素排出量削減が求められているが、そのために自動車の排気ガス規制が必要になってくる。自動車の排気ガスは二酸化炭素排出の主要な排出源であり、二酸化炭素だけではなく排気ガスにはさまざまな有害物質が含まれており、大気汚染を引き起こす。人が密集しておらず交通量も少ない農村では問題にはならないが、人口が密集し通行量も多い都市では車が密集すると大変である。車が集まればその分空気は汚くなるし、集まることによって渋滞が起こり、そのぶん余分な二酸化炭素を排出する結果にもなる。都市における環境対策において自動車への対応は大きな鍵を握っていると言ってよい。 それでは都市の自動車を規制するためにはそれに代わる公共交通機関が必要になってくる。日本で都市交通機関と言えばバスが一般的である。また大都市では地下鉄網が整備されている。新交通システムやモノレールも使われている。ではLRTはそれらに対してどういうメリットがあるのだろうか。まず、路面を走る電車のため建設費が安価であるという点である。地下鉄や新交通システムは建設費が高いし、路面を走ることはできない。LRTなら混雑する道路では地下や高架を走ることができる。路面を走る分階段の上り下りが少なく乗りやすいという点である。バスと比べれば電車である分排気ガスは出さないし、輸送力が大きい分エネルギー効率が高くなる。LRTでは線路・車両とも最新鋭の技術が投入されており、旧来の路面電車の欠点(遅い、道路が混む)を克服している。しかし、LRTはハード面だけで先進的なのではない。それを支えるシステムや都市製作とも密接に連携しあっている部分も注目されるべきなのである。

◇トランジットモールによる都市再生

 LRTは単に環境対策だけで建設されているわけではない。都市の機能を回復させるための政策と位置づけられて建設されている。自動車の渋滞で問題となるのは排気ガスによる大気汚染だけでなく、街の機能を阻害する点もまた重要である。渋滞によって身動きがとれなくなった街から人々は去り、渋滞のない郊外へ買い物へゆくようになる。今や地方では郊外の大規模店舗なしには生活が成り立たなくなっている。そうなるとそれまでの街はどんどん空洞化してしまう。もはや街としての体をなさなくなってしまう。
 路面電車の廃止が進んだ当時、路面電車は渋滞を引き起こして街の機能を阻害すると言われていた。だが、路面電車の廃止を進めて自動車をどんどん町中に入れた結果はご覧のとおりである。バスも身動きがとれない。そこでヨーロッパでは町の中心部への車の乗り入れを規制する代わりにLRTを建設することにした。これがトランジットモールである。市街地をトラフィック・セルとよばれるいくつかの地区に区切り、それぞれのセルには許可を受けた車(おもに地区住民)しか入れなくする。通過交通については郊外を通るバイパスに迂回させる。トランジットモール内はLRTとバスやトロリーバスが走り、外からクルマで町にやってくる人は郊外に建設された駐車場に止め、そこからLRTやバスに乗り換えて街へと向かう。街には自動車は走らず、ゆっくり人が歩ける。クルマは面積を取る乗り物である。市街地では道路用地だけでなく、駐車場確保も頭が痛い問題である。だが、トランジットモールではその悩みから解放される。空いたクルマ用の土地は公共スペースへと転用できる。人を引きつける施設を建設し、人が歩きやすい空間を作ればまた街に人が戻ってくる。町の中心部の商業も再び盛んになる。
 自動車を規制するトランジットモールは決して不便なものではない。それだけ魅力のあるものを引き替えてくれるのである。郊外で降ろされるのは不便に感じるかもしれないが、狭い町中とは違い駐車場のスペースには余裕があり、駐車場の問題から解放される。乗り換えのタイムロスも渋滞からの解放で相殺されるので思ったほど負担は大きくない。電車も町中をすいすい走るので快適である。地下鉄でもよいと思うかもしれないが、きめ細かさでは地上を走るLRTやバスの方が軍配が上がる。乗客の多い大都市ではLRTと地下鉄を使い分けているようである。ヨーロッパのLRTでおもしろいところはあまりにも混雑するところでは地下に線路を建設している点である。路面電車が地下を走ると言う、一見奇抜だが合理的な方法もLRTをうまく走らすための知恵である。なにごとも固定観念にとらわれていればうまくはいかない。

◇アメニティーとLRT

 自動車問題を考えるにあたって重要なのは交通弱者の問題である。交通弱者とは自ら自動車を運転できない人のことで、免許を所有できる18歳以下の若年層と運転が困難な老人、身体障害者が該当する。若年層は自転車や徒歩でも結構活動できるので町の中では不便はないが、老人や身体障害者はそうはいかない。彼らは自動車が運転できないばかりでなく、自転車や徒歩でも困難が大きい。だからこそ彼らには公共交通機関が不可欠な存在となる。だが、町の機能が阻害されて路面電車やバスが廃止されれば彼らは足を失うことになる。公共交通機関として路面電車の役割は大きいと言える。
 だが、それではただ走っていればよいのかと言えばそうではない。交通弱者にとって使いやすい乗り物でなければならない。これまでの路面電車では入り口に段差があって乗車しにくかった。とくに車イス利用の時は何人かで抱え上げなければならなかった。そこで最新鋭のLRTでは車イスでも乗りやすくするために床をできる限り低く平らにした超低床式が採用された。超低床式の電車はスムーズに乗り降りでき、その点だけでも老人や身体障害者でなくとも便利であるが、乗降がスムーズな分停留所での停車時間が短くなってスピードアップにつながるメリットも大きい。LRTが走る町、それは車に乗れない人にとっても住みよい町を目指したものである。
 クルマが走らない町は排気ガスにさらされることはない。そしてクルマの利用が減る分だけ二酸化炭素の排出も減る。特にクルマからの排出で大きいのはアイドリングであるが、渋滞の激しい区間をLRTに置き換えることによって一番無駄な二酸化炭素の排出を削減できる。人々の過度のクルマへの依存を改め、環境負荷の少ない交通体系に改めるためにはクルマの短所をよく見極め、その部分については他の交通機関へ置き換えてゆかなくてはならない。LRTとて万能ではなく、不適当な場面だって多いだろう。しかし、クルマだけという状態はもはや破綻を来している。LRTを選択肢の一つとすることは決して間違ってはいないだろう。
 クルマ社会を改めると言っても上からやったのではうまくはいかない。街づくりに住民が参加して自主的にさまざまな選択肢を検討し、話し合わなければならない。ヨーロッパのLRT先進都市はすべて住民が計画に参加して実現している。LRTを導入するにあたっては住民一人一人が都市の交通問題を自らの問題として、街の経済・環境・交通・福祉さまざまな点から考えて行くことが求められる。それにはまずLRTが旧来の路面電車ではなく最新鋭の交通機関であることを認識しなければならない。これは鉄道全体の課題でもあるが、LRTについてはもっともっとアピールされるべきである。  


1999.7/27 執筆






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|作成:2003年7月28日、最終更新2012年2月1日|


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