フランスのトラム(LRT)

フランスは、近年最もトラムの復権が盛んな国です。かつてはイギリスやアメリカ同様、モータリゼーションの進展に伴いほとんどの都市でトラムの撤去が進み、わずかにリール、マルセイユ、サンティティエンヌの３都市に残るだけになってしまいました。しかし、70年代からの公共交通復権の流れの中で、1985年のナントを皮切りにLRT導入が相次ぎ、2003年現在１４都市でLRTが運行されています。また、ミュルーズ、クレルモン＝フェラン、ヴァレンシアンヌで建設工事が進められており、ル・マンなど他の５都市でも導入に向けての計画が進んでいます。また、すでに導入している都市の大半で延伸工事が進められています。
　フランスでは、トラム以外にもゴムタイヤメトロや新交通システム（ミニ地下鉄）のVALなど様々な都市交通機関を導入しています。バスの活用にも積極的で、連接バスや新型トロリーバス、ガイドウェイバスが導入されてます。
　フランスのLRTは一都市一革命と言ってよいくらい新機軸の導入に積極的で、現在のLRT大隆盛を引っ張る原動力となっています。代表的な例として、世界初の車軸なし台車導入によるグルノーブルのノンステップトラム、アーバンデザインと結合した斬新なデザインのトラムを導入したストラスブール、初のゴムタイヤトラムのナンシー、新機軸の第三軌条方式によって架線なしの軌道を実現したボルドーのLRTが挙げられます。ルーアンや、新方式のゴムタイヤトラムの建設工事が進むクレルモン＝フェランでは、光学式ガイドウェイバスの導入が行われています。また、ストラスブールとミュルーズでは鉄道線への乗り入れのトラム＝トラン計画が進められています。
　2006年に入り、５月１３日にはアルザス地方・ミュルーズ市のLRTが開業、７月３日にはヴァレンシアンヌのLRTが開業し、さらにトランスロールの初陣となるクレルモン＝フェランのLRTが開業、2006年秋には、またパリの外環状線LRT(３号線と４号線)開業しました。かつては路面電車を事実上見捨てた国も、この四半世紀のトラム再生により導入都市数・延長距離ともに日本を追い抜きました。名実共に、フランスは路面電車先進国になったのです。フランス政府は、トラムを都市環境問題の切り札として位置づけています。ニコラ・サルコジ大統領は環境問題解決のために、都市圏における新規道路着工の事実上の凍結と、トラムやBRTの積極導入を盛り込んだ国家環境戦略・グルネル法を2009年発効させました。グルネル法のプログラムによって、トラム導入のプログラムが増加しました。2010年代も順調に増加し、ランス、アンジェ、ブレスト、ディジョン、ル・アーブルと開業し、2013年8月31日にトゥールのトラムが仲間に加わり、27都市となりました。

　フランスの都市交通政策において、バス交通の充実もトラム(LRT)導入と並んで重要施策となっています。特に力を入れているのは、BHNS(高レベルサービスのバス、BRTのフランス語名称)です。BHNSは、専用レーン、高速性、定時性、頻繁運転、わかりやすい路線アピールなどを特徴とするバスサービスで、言ってしまえば「バスを用いたLRT」のような存在です。フランスの法律では、バス専用レーンも軌道系交通と同様の補助制度が適用されるため、トラムを導入出来ない小都市ではBHNSを都市交通の切り札としているところも増えています。BHNSのケースとしては、ナントのT4号線、ルーアンのTEOR、ラ・ロッシェルのYelo、ニームのTrambusなどが上げられます。
　BHNSとトラムの中間的な存在として、ゴムタイヤトラムも導入されています。クレルモン＝フェランやパリで導入されています。

フランスのトラム(LRT)一覧

電車の絵をクリックすると、その都市の詳細がご覧になれます(一部表示されない都市があります)。ストラスブール、ナンシー、ボルドー、ルーアン、ザールブリュッケンは、それぞれのコンテンツを表示します。それ以外の都市は、小窓にて基礎情報のみを表示します。
パリ、イル・ド・フランス(RATP) Paris, Ile de France(RATP) 1992年7月6日開業、３系統、33.6km メトロ 鉄輪 ゴムタイヤ BRT	パリ、イル・ド・フランス(SNCF) Paris, Ile de France(SNCF) 2006年11月20日開業、１系統、7.9km トラム＝トレイン
ストラスブール　Strasbourg 1994年11月26日開業、６系統、40.2km	ミュルーズ　Mulhousen 2006年5月20日開業、３系統＋1系統、16.2km トラム＝トレイン
サン＝ルイ　Saint Louis スイス、バーゼル市電と相互乗り入れ	ザルグミヌ　Sarreguemines ドイツ、ザールブリュッケンからの直通 トラム＝トレイン
ナンシー　Nancy 2000年開業、１系統、11km ゴムタイヤ式	ランス(シャンパーニュ)　Reims 2011年4月18日開業、２系統、11.2km 架線レス(APS)
ヴァランシエンヌ　Vallencienne 2006年7月3日開業、１系統、18.3km	リール　Lille 1909年開業、２系統、22km 1mゲージ
ルーアン　Rouen 1994年12月17日開業、２系統、15.1km 鉄輪 BRT	ル・アーブル　Le Havre 2012年12月12日開業
ナント　Nantes(市内線) 1985年1月7日開業、３系統、43km 鉄輪 BRT トラム＝トレイン	ナント　Nantes(トラム=トレイン) 2011年6月15日運行開始 トラム＝トレイン
ル=マン　Le Mans 2007年11月17日開業、２系統、15.4km	アンジェ　Angers 2011年6月25日開業、１系統、12.3km 架線レス(APS)
ブレスト　Brest 2012年6月23日開業、１系統、14.3km	オルレアン　Orléans 2000年11月20日開業、２系統、29.3km 架線レス(APS)
ディジョン　Dijon 2012年9月1日開業、１系統、8.5km	トゥール　Tours 2013年8月31日開業、１系統、14.8km 架線レス(APS)
ブサンソン　Besançon 2014年8月30日開業、2系統、14.5km	トゥールーズ　Toulose 2010年12月11日開業、１系統、10.9km 鉄輪 メトロ BRT
ボルドー　Bordeaux 2003年12月21日開業、４系統、44.3km 架線レス(APS)	サン＝ティティエンヌ　St. Étienne 1881年12月4日開業、3系統、11.7km 1mゲージ トロバス
グルノーブル　Grenoble 1987年8月3日開業、5系統、34.4m	リヨン　Lyon(市内線) 2001年1月2日開業、４系統、48.9km 鉄輪 メトロ BRT トロバス
リヨン Lyon(空港線) 2010年8月9日開業、1系統、23km トラム＝トレイン	リヨン　Lyon(トラム=トレイン) 2012年12月4日運行開始 トラム＝トレイン
クレルモン＝フェラン Clermont Ferrand 2006年11月13日開業、１系統、13.7km ゴムタイヤ式	マルセイユ　Marseille 1892年開業　2007年6月30日リニューアル ２系統　12.6km メトロ
ニース　Nice 2007年11月26日開業、１系統、8.7km 架線レス(バッテリー)	モンペリエ　Montpellier 2000年6月30日開業、4系統、63km
オーバーニュ Aubagne 2014年9月1日開業、1系統、3km	アヴィニヨン　Avignon 2019年開業予定
カーン　Caen 2019年開業予定	アンヌマス　Annemasse 2016年開業予定 スイス、ジュネーブからの直通
サンジュリアン・アン・ジュネーブ Saint-Julien en Genevois 2018年開業予定 スイス、ジュネーブからの直通

営業終了したトラム

ドゥエー　Douaia 2010年開業、１系統、12km ゴムタイヤ式(Phileas) ※バスモードでの暫定開業 2014年末で営業終了、BRTに転換

カーン　Caen 2002年開業、２系統、15.7km ゴムタイヤ式 2017年末で営業終了、鉄輪式トラム転換工事中

キャンセルされたトラム(LRT)プロジェクト

• トゥーロン(Toulon)：プロヴァンス・アルプ・コートダジュール地方で第三の都市であり、重要な軍港として都市圏人口40万人を抱える都市で、トラム(LRT)導入は手続きが相当進んでいましたが、2007年に市長が他の安価な手段の検討を表明し、LRT事業は中止。現在BRT導入プロジェクトに切り替えて検討中です。
• サンドニ・レユニオン(Saint-Denis de la Réunion)：インド洋に浮かぶフランスの海外県の一つレユニオン島では、トラム＝トレインのプロジェクトが進んでおり、海外県で初のLRTプロジェクトとして注目すべき存在したが、2011年に財政上の問題から中止され、BRT(専用レーンバス)に置き換わりました。
• フォール・ド・フランス、マルティニーク(Fort-de-France, Martinique)：カリブ海のリゾート島・マルティニーク島はゴムタイヤトラムの導入を進めていましたが、諸般の事情で2011年に中止され、BRT計画に置き換わりました。なお、海外県のトラム導入プロジェクトは、2013年になってカリブ海のグアドループ島での鉄輪式LRT導入が新たに立ち上がりました。
• アルトワ＝ゴーシュ(Artois-Gohelle)：ノール地方のランス市(Lens)・ミニエ市(Minier)・ベチューヌ市(Béthune)の三都市を結ぶトラムのプロジェクトでしたが、2013年に中止、BRT計画に変更されました。この三都市のバスの運輸成績があまり良くなく需要見通しが良くない上に、同じノール地方のヴァランシエンヌのトラムやドゥエーのゴムタイヤトラムの運輸成績が芳しくないことも影響したのだと思われます。
• アミアン(Amiens)：本市は人口18万人の小都市ですが、パリから近いこともあり経済発展を目指してトラムの導入を進めていましたが、2014年選挙でトラム推進派の社会党市政から、中道右派市政に変わったため、トラムはキャンセルされてBRTプロジェクトに変わりました。