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線路の敷き方見本市
ルーアンのトラム(LRT)

 ルーアンのトラムは、メトロという呼称からわかるように、都心部を地下線にしていることが特徴です。単に地下線を使うだけではなく、主要な道路と出来る限り立体交差にするため、部分的な地下ランプや、逆に並行道路を地下にするなど道路交通流と折り合いをつけながら、トラム路線を挿入しています。立体化は路面に軌道を単に敷くよりは建設コストがかかりますが、それでも全線地下にするよりは交差点だけ下に潜る方法はよほど安価な方法と言えます。LRTと言えば、路面も地下も高架も走れるのがメリットと言われていますが、そのメリットを最大限に駆使して都心に路線をしいたのがルーアンのトラムです。LRT立体化の手法をすべて使った感のあるルーアンのトラム、その手法を紹介します。

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地下線と地下駅

 メトロという名前だけあって、都心部では地下線を採用しています。地下線区間には地下駅が存在しており、地下鉄同様の駅設備となっています。地下線となっているのが、起点のBouligrin-Juffre-Mutualité間で、セーヌ川を渡るThéàtre des Art-Juffre-Mutualité間は一度地上に出ます。この区間の、起点のBoulingrinを除く全駅が地下駅となっています。すなわち、Beauvoisine、Gare-Rue Vert、Plais de Justice、Théàtre des Art、Juffre-Mutualitéの合計5駅が地下駅となっています。地下駅にはエレベーターやエスカレーターを装備して旅客の利便性に配慮、駅自体は立派なホームを持ち、低床車に併せてホームが低いことを除けば地下鉄の駅とは雰囲気は変わりません。もちろん、トラムですから駅に改札はないのが日本の地下鉄とは雰囲気が異なるところでしょう(ヨーロッパでも、ドイツの全Uバーンおよびリヨンのメトロには改札はありません)。セーヌ川右岸地区(北部)の駅は通常の地下線ですが、Juffre-Mutualitéだけは駅の前後がすぐに坂になっています。駅だけ地下にした構造です。ここは右岸の4駅とは異なり、主要道路との交差のために地下にして、さらに地下に駅を設けた構造です。次項の「谷町方式」に近いと言えます(ただし、底に駅があることから、加速時に上り坂、減速時に下り坂となり、エネルギー効率は悪くなりますが)。
 ちなみに、ルーアンのトラムの呼称は「メトロ」ですが、メトロを表す丸にMのマークは、地下駅となった5駅にしか表示されていません。地上区間にある停留所には、メトロマークも、トラムの表示もありません。さすがに路面停留所に「メトロ」表示は無理があるし、「トラム」は使いたくなかったので、地上停留所無表示となった感があります(他の国にはLRTとか、スタッドバーンなどとかというトラムよりも上位の用語が存在しますが、フランス語にはLRTに該当する言葉がありません・・・・)。


交差点地下ランプ方式(谷町方式)

 最初に断っておきますが、「谷町方式」は筆者の造語です。一般的な用語ではありません。今後Le Tramで頻繁にこの方式を説明する機会があるので、便宜上「谷町方式」と名付けておきます。谷町とは、相撲のパトロンを挿す「タニマチ」と語源は同じ、大阪の地名です。大阪の谷町筋で主要道路の交差を地下ランプで立体交差にしていることから、名付けています。大阪の谷町では、南北の主要道路である谷町筋が、長堀通(谷町六丁目交差点)、千日前通(九丁目交差点)との交点で地下に潜って立体交差しています。大阪の場合は道路同士ですが、ヨーロッパではトラムやLRTの線路が絡んで立体交差となっているケースが多いです。
 ルーアンの場合も、トラムが主要道路の交差点で地下に潜り、平面交差を避けています。地下ランプは駅と駅の間にあり、駅を出て地下ランプへの下り坂で加速の手助けとなり、次駅手前で上り坂となって減速がかかる、重力の力を借りて加速時の電力消費と減速時のブレーキ摩耗を減らす、効率のよい路線となります。ルーアンの地下ランプはSaint-Sever-Avenue de Caen/Europe間(地下に分岐点がある)、Avenue de Caen-Jean Jaurès間の二ヶ所にあります。また、Juffre-Mutualité駅も駅の前後ですぐに地上に出ていることから、実質上地下ランプ区間と言えます。ルーアンでは、交差点はトラムが地下に潜り、道路を地上に通していますが、カールスルーエではトラムが地上を走り、自動車が地下となって交差しています。都市によって考え方が異なると言え、ルーアンのトラムがどちらかと言えば既存の自動車交通流を変えないように敷設されているのがわかります。


停留所の為の道路地下化

 ルーアンのトラムは、どちらかと言えば道路に遠慮しながら線路が敷かれており、Juffre-Mutualitéに見られるように道路との交差のために前後が地上にもかかわらず地下駅となって利用者は上下移動を強いられていたりします。その一方で、利用者が平面移動で乗車できるように、道路の方を地下にした停留所も存在します。それが、二路線の分岐駅でもあるSaint-Sever駅です。Saint-Sever停留所は大通りの真ん中にあり、つまりセンターリザベーションの停留所と言えます。特徴的なのはその道路で、両側の道路はここでは地下に潜っており、歩道から平面移動で自動車に妨げられずに停留所に到着できるようになっています。また、この歩道からのアクセスルート(道路の蓋)は広場のようにもなっており、土地の限られた都心部でトラムの路線挿入、道路との立体化、シームレス停留所の実現に加えて公共空間の確保にも成功したケースと言えます。同様の事例は、ストラスブールのレ・アル広場でも見られます。


郊外部の軌道も見てみれば-まとめに代えて

 郊外部の軌道は、ごく普通にトラムの軌道で、都心に近い区間ではセンターリザベーション、郊外に入るとサイドリザベーションという典型的な線路の敷き方です。住宅街では芝生軌道の採用しています。こう見れば、ルーアンは都心で様々な立体交差を採用する一方で、郊外では通常のトラムの敷設を行っており、芝生軌道など使える軌道敷設技術は全部使っているいう感じです。ルーアンでないものと言えばトランジットモールくらいのものです。トランジットモールは無くとも、ルーアンも都心部の自動車規制を実施しており(大聖堂やジャンヌダルク教会付近の歩行者ゾーン化のため)、ストラスブールとの違いは自動車が規制されている都心部で、電車が路面を走るか地下を走るかの違いに過ぎません。
 ルーアンのトラムは、都市のグランドデザインの体現化を目指したものではなく、また大規模な都市交通変革を目指したものでもなく、単に軌道系交通を挿入しただけです(もちろん、軌道系交通が必要な状況下で開業した路線であることは言うまでもありません)。と言えども、その路線の敷設には様々な工夫が凝らされており、非常に見るべきところがたくさんあります。都心部では自動車交通とのかねあいが常にLRT/トラム導入の障壁となります。地下ランプ多用によるルーアン形トラム敷設も、道路網再編の困難な都市では一つの先進事例として評価できるでしょう。




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参考文献・資料
・西村幸格・服部重敬『都市と路面公共交通』学芸出版社、2000、pp.142-143, p.149
・望月真一『路面電車が街をつくる』鹿島出版会、2001、pp.120-130


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|作成:2004年5月11日ページ作成、最終更新2012年3月5日|


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